7月31日、TUGBOAT代表のクリエイティブディレクター、岡康道さんが亡くなられました。

まだ、63歳という若さ。突然の訃報に触れ、ツイッターのタイムラインに流れるクリエイターの弔意を眺めながら、改めて広告界は大きな存在を失ったんだなと。

 

みなさん、口を揃えて言うのが「かっこいい人だった」という言葉。もちろん、見た目のカッコよさもあるでしょうが、とにかくハートがかっこいい人だったと。

そういえば、ドラマ「恋ノチカラ」堤真一さんのモデルは岡さんという話は有名です。

 

 

手がけた広告を後輩に見せるとき、「目をキラキラさせながら話されていて、自分の仕事を愛してるのが伝わってきた」という趣旨のつぶやきもありました。

そういえば、ドラマにもそんなシーンありましたね(たしか、缶コーヒーのデザイン)。

 

それらのツイートを眺めながら、わたしも岡さんのハートに触れてみようとネットを漁ってみました。

もちちんインタビューや対談もたくさんありましたが、特に気になったのが「渋谷のラジオ|渋谷のコピーライター」2019年だから、昨年です。

 

 

ツイートには「プレゼン上手になる必要はない」の話をまとめています(ラジオでは44:00~)。

誰もが薄々は感じていることです。でも、せっかくならよく見せたいのが人の子、広告の子。そこを、いや違うと断言する、岡さんの言葉の切れ味と説得力。

 

ほかにも、オリエンは企業の宣伝部が考えてくれた「とりあえずこう考えたんだけど、どうだろう?」という一つの仮説にすぎない。

そのバトンを渡された以上は、自分なりに答えを考えるべき。オリエンが第一走者なら、クリエイターが第二走者。演出家が第三走者で、演者がアンカーの話もよかった(32:00~)。

 

わたしが一番驚いたのは、演出家には「字コンテ」しか渡さないというエピソード。自分が考えた企画なら、イメージをあれこれ伝えたくなりますよね。

でも、言わない。そのほうが演出家が力を発揮するから。

 

あと、撮影でも演出家にべったり張り付かない。自分がCDのときには、撮影現場にすら行かない。大がかりな人避けなど、撮影の苦労を見てしまうと、編集でカットしにくくなるから、などなど。

岡さんの仕事に対する姿勢を垣間見れた1時間でした。未聴の方は、ぜひ。

 

さいごに、岡さんが手がけたたくさんの仕事の中で、印象に残っているものを一つ。

もう、25年ほど前ですか。アトランタ五輪を前にした、民放連(日本民間放送連盟)のCM。キャッチコピーは「オリンピックがなければ、平凡な夏でした。」

 

 

コピーは、コピーライター小松洋支さんと岡康道さんの連名。おそらく、岡さんがクリエイティブディレクターかCMプランナーのどちらかでしょう。

コピーの味わい深さはもちろん、CMの構成と演出がまたいいんです。いくら探しても動画が見つからず、映像で見てもらえないのがほんと残念。

 

おぼろげな記憶ですが、バイトで忙しく、夏休みに帰省できない女子学生。電話で(当時はまだ公衆電話)上司に謝るサラリーマン役の柳沢慎吾さん。

ラーメン屋のテレビから流れてくるオリンピック中継。日本選手の活躍に、思わず立ち上がって「よぉーし!」と声を上げる柳沢さん。学生と目を合わすようなシーンもあったかな。

 

そこへ「オリンピックがなければ、平凡な夏でした。」のナレーション&コピー。

30秒のCMですが、多くの尺を“平凡”なほうに割いています。そう、オリンピックがあるからって、ほとんどの人にとっては、普段の生活に関係ありません。

 

バイトはあるし(親とあまり上手くいってないとか、そんなニュアンスもあったかも)、仕事でミスして凹んでたり、自分の人生に迷ってたりもする。

そんな“平凡”な毎日に、ふと飛び込んでくるアスリートの頑張り。

 

何かをあきらめていた日常で、どうしてオリンピックに熱くなるんだろう。人は人を応援したい生き物だから?それとも、自分の中の炎が、まだ完全に消えてはいないから?

こういうCM、また観たいな。人間の心の深いところに届く、人生を応援するようなCM。

 

多くの広告クリエイターに影響を与えた、岡康道さん。この先きっと、何十年と語り継がれるであろう仕事の数々。

その精神は、広告を志す後輩に受け継がれ、魂はわたしたちの心に宿りつづけます。

 

 

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